職場のお局がやっている業務が物品の管理であった。
正確にどういうモノかをここで伝えるつもりはありませんが、「お局」は「管理」のエキスパートという暗黙の位置づけだった。
で、かりにそのお局をAと例える。
Aがやるはずのモノの管理をBというヤンキー崩れのお姉ちゃんに頼んでいたようだった。
みな私の部署にいた人はそれぞれに仕事を抱えているので、忙しく、
いつのまにかBというお姉ちゃんが抱えていた物品の管理をBが私に依頼するようになった。
私だって暇ではないし、引き受ける代わりにじゃあ私の抱えている何かの仕事を、誰かが受け取ってくれるわけではなく、
そもそも、物品の管理じたい常々やったことがないので面倒というか、どうして良いのかいまいち、要領がわからない仕事だった。
製造番号を確認し、使用済みのモノなのであまりにも汚れていたら掃除をし、指定のシールを貼った上でいらなくなったダンボールへしまい、荷造りする。
お局のAはもともと在庫管理をする部署の人間であったので、Aが持っている知識の手順でやれば簡単に済むはずだったはずだ。
ヤンキー崩れのBも、その仕事が手に回らなければ、お局のAにできないと仕事を返して、その先のことを決めればよいものを、
お局のAを察してか、
なぜだか私にその物品の管理を回してきたようだった。
暇そうにみえたのであろうか。
表面上はとくになんともないが、というか、ほとんど会話をしないが、私はお局が嫌いだった。
お局も私が嫌いだったろう。
ヤンキーなお姉ちゃんのBが私に教えはじめた不要物品の管理のやり取りは、どう考えたってAの視界にも意識にも入っているのだが、
Aは私が管理をすることに対して、ずっと黙っていた。
こっちだってほんとうに暇ではない、
さぐりさぐりやりながら、管理用のExcel表などをつくり、物品の製造番号や使用経路などをデータで確認しながら、コツコツとダンボール箱に詰め続けた。
なにしろBが途中で仕事を放り投げ、どんどんたまった物品が、もう処理できなくなり置くスペースも無くなり、パンクしそうな時に私に放り投げてきたような仕事である。
私は、そればっかりをすることもできないので、
日中、外部からの電話が鳴らなくなり、集中して作業できるようになる時間帯、夕方過ぎなどに少しずつ作業をして溜まった物品をパソコンで作った表で管理し、使わなくなったダンボール箱にそれをつめる。
時間が空いている時、徐々に少しずつ減らしていった。
ダンボール箱が6箱ぐらい、昔のVHSビデオテープほどの大きさの物品を入るだけ詰め込む。
いまとなっては正しい数は忘れたが、合計で100近くはあったと思う。
こっちも仕事の片手間、どうしようもない時は、残業もしながら荷造りした。
途中、仕事をまわしてきたBは進捗を確認するか、彼女しかわからないイレギュラーの使用経路を調べる時ぐらいに出てくるだけだった。
半年ぐらいコツコツ、ほぼ、ひとりで詰め込んだ物品、
いざ指定の所へ送ろうとした時である。
お局が登場した。
私の視界に入る場所で、ダンボールの中を開封する。
中身を取り出すように、私以外の人間に指示をし始め、お局が音頭を取り始めた。
Aのお局よりは、少なくとも良心があったBのお姉ちゃんも、その状況に少し驚き、顔を出す。
私がいることにも気にかけて、Aのお局に今までの成り行きを話してはいたが、お局はお構いなしだった。
そもそも、おおまかな管理の流れを教えたのはBであり、Bも手順はそれで良く、物品を詰めたダンボールをじゃあ送ってしまおうという話になっていた。
詰め込んだダンボール箱は、オフィスの誰も使ってないデスクに並べられ、もう後の作業は返送先へ送るだけだった。
お局が、ダンボールの梱包を開け、中に入っていたエクセルで作った印刷された管理簿をみて、私に聞こえるのかのように、フッと鼻で笑った。
私の目の間で、中身を他の連中に広げさせ、
梱包をし直すように指示をしはじめた。
梱包しなおすだけではない、
全てをダンボールから取り出させ、はじめからやり直す。
もちろん物品を管理していたエクセル表だって、お局が気にいるように、再度、お局が作り直して、ああだこうだと、若い連中に指示をしはじめる。
いったい何がしたかったのだろうか・・・、
ほんとうに歪んだ人間を見た気がした。
半年以上かけて、空いた時間を探し、汚くなった使用済みの物品を掃除し、エクセルで管理してダンボールへ詰め込んだ。
いざ送る段階になって、
彼女の登場である。
お局は、わざと彼女の仕事場での存在を見せつけるかのように、あの時、私がいた職場で振舞っていたような気がする。
じゃあさ、はじめから、あなたがやればよかったことでしょ、
心の底から私はそう思ったが、あの時はもう、言葉を発する気力もなかった。
もう、ほんとうに歪んでいるやつだと軽蔑してしまったので、話しても無駄だと思ったし、言うのもばかばかしかった。
ほんとうに気持ち悪い人間がいるんだと私は思った。
ねえ、はじめから、そうするなら言ってよ、
たとえさ、たとえ、私の手順や、梱包の仕方が間違っていた、
もしくは気に食わなかったとしても、
いざ送る時になって全てを目の前でバラすなんて、
なんで一言さ、ごめん、これじゃダメなんだって言わないのだろうか・・・。
私は悲しいより、怒りの方が強かった。
それは、単純に、私のやり方の問題、手順の問題ではなかったと思う。
仕事をするうえでのマウンティングだったと、
お局の方が絶対的上であるという、言葉にはしないが態度で示す意思表示、
単純に私のことが気に食わなかったので、
口で文句を言わずに、仕事の処理で表現した。
同じような行動は、それ以外にも他の場面で端々にあった。
今でも思い出すと、苦しくなる。
もしさ、そのお局が、わざとじゃなくて、
無意識にしてしまった行為だとしても、わざと無意識、どっちだったら許せただろうかと今となっては考える。
お局が、上司にこのやり方だと送れないから私が別の人に指示しなおして発送させますと話しをした光景は、見なくても想像できた。
彼女は、きっと職場での自分の立場を守るためにもそういった処世術しかとれないのだろうかとも感じた。
職場で、人を蹴落として自分の立場を示す。
そんな環境だったことに、私は悲しんだのだろうか、
そいつが単純に嫌だったのだろうか、
どっちもあったと思う。
私がその為の時間をつくって、手順も理屈も良くわからなかったが、なんとか処理して積み上げたダンボールがあっけなくバラされる気持ちを彼女は想像できたのだろうか、
どんな気持ちでつくったものを破壊されるのか考えることはなかったのだろうか、
つくったといっても、もう使わない、ゴミみたいな物品だが、
別にあってもなくても良いようなモノを、意味もなく馬鹿真面目に管理しようとするからさ、
そもそもなんであんなことしていたんだろう。
荷造をしていた時、残業しながら、
そのお局は、目も向けず、いや、目に入っていたはずだが、
何も言わずに先に帰り、
もう、体調もだいぶすぐれなくなっていた時、それでも必死で他にやることもあるから片付けようとして、発送ができる状態にまで物品を詰め込んでつくったダンボール、
それが、
最後に、お局が指示すれば、管理も発送も、さも簡単なことであるような態度で、詰みあがったダンボールを開封し、鼻で笑い、
お局が怖いのか、他の人たちは、お局が指示したらいっせいに指示に従った。
ひとりで作業していた時は、みな、見ぬフリをしていたのに、
そりゃはやく片付くよね、
いったい私はなんだったのだろうか、
そうやって、言葉以外で否定されて、
もうこんな人たちと、そして、仕事場がほとほと嫌になった記憶・・・。
人が集まる職場、
ほんとうに、こんな人間がいる事実、
心がだから病みまくった・・・。
それに気づかぬフリをしていたら、どんどん体がおかしくなった。
たまにあの時の気持ちがよみがえってどうしようもない気持ちになる。
単純に私が被害者だけだったのか、ほんとうにそうだろうかと、今でも考える。
知らずに、なんらか、仕事上で手を出し、お局に嫌な思いをさせていたのかもしれない、そう思うこともある。
一方的に私が被害を被ったように思っているだけで、私もどこかで、お局の得意とする物品の管理について、知らずに手を出し、私の知らないところで迷惑をかけていただけだろうかと、だからあんなことになったのかと、夜中うなされるように考えこむことがある。
私はやっぱり、逃げただけなのだろうか、
私の言葉も足りなかったのだろうか、
だけど、だけど、
いつも物品の管理でイライラいしているお局の雰囲気を察し、
この人だって管理を任されていることにカリカリしているのだろうから、
ダンボールに詰め込み発送するだけならやってあげても良いかなとも思っていたのも事実だ。
いや、「あげても良いかな」など、どこかで思っていたこと自体が彼女の気持ちを逆なでしたのだろうか、
嘘だ、
私だって無意識のうちに、お局に見せつけるように、これだけやっているに、あなたは何も感じないのかと、そう私も態度で見せつけていたのだろうかと考えてしまうことがある・・・。
だから、お局から最後の最後で、すべてを壊されるようなやり方で仕返しをされたのだろうか、
もう、どちらにしても、なにをしたとしても、結局うまくいかなかったのだと、
それだけしか答えがない。
最後の最後にダンボールをこじ開けられ、すべてをやり直されたことが、私が許せなかった、お局の人間として、嫌な本質だったのか、
しかし、人間としての本質を考えたなら、私だって同じようにお局に、無意識で、無言の形でダンボール詰めの作業を見せていたじゃないかと、考えが堂々巡りしていた。
答えがでないと、そう、心のどこかで悟った時に、これがすべてではなく、もう色々なことがごちゃませになって、
仕事場をあきらめた。
逃げたに近い、実際、逃げた。
ただ、私は、それでも壊れる寸前の自分を守ったと、
心が先か体が先が、
でも、あんな感情になるのは、もうほんとうに嫌だと、
落ち着いた今でも、ふと、思い出すとやっぱり怖くなる。
どうしても許せないこと、
それが今、思い出すと、お局だったのか、
それとも、人をそんな風にさせてしまう組織だったのか、
きっと、そうさせてしまう会社だったのだと、今は考える。
コメントを残す