あたらしい物語をはじめようと決めた、春の土曜日
新緑のきらきら光る日、
4月の後半だった。
今年の春になってから、いちばんさわやかな、暑くもなく、寒くもなく、
さらっとしていて、
キラキラな土曜日の午前だった。
緑が反射するようにまぶしい。
電車のホームに降りって、肌を撫でる風。
あと1年半はたぶんなんとか生きていける。
もう、これ以上、体も頭もおかしくならないうちに、今いる会社はやめようとどこかで感じていたことだった。
ずっと考えていたことだった。
でも決意できなかった。
決めきれなかった。
ただ、どうしても、体調がついてこないこと、心がついてこないこと、それは今年に入ってからひしひしと感じていたことだった。
どこかで区切りをつけないといけない。
4月後半の土曜日の陽の光はどこまでも綺麗で、空気はどこまでもさらさらだった。
すっと駅のホームに降りたつ。
目に入る新緑のみどり。
「もういいや辞めても良いや」
そう思えた時に、気持ちがスッと楽になった。
乾燥してない風、
さわやかな新緑のみどり、
目に入る緑は、これから新しい息吹をもった私なのではないかと思ってしまうほど、
すがすがしい空気。
体の重みがどんどん抜けていった。
肌を包む風が心地よい。
あの、暑くもなく、寒くもない、
まるで天国のような新緑、
肌の感覚、体感、つつんだ空気、
ずっと忘れたくない、一生忘れたくない。
そう感じたら気持ちがするっとほどけていった。
ほぼ、気持ちは決心した。
もうどうなっても後悔はないだろう。
もうつらい職場から自分を解放することができる。
心も体もぼろぼろだった。
なんども言うように、気持ちが軽い。
だから新しい人生をはじめよう。
その気持ちがやっとさだまりつつあった。
もうこの季節、この時期、このタイミングがあらかじめ用意されていたと、思うほどに、
どこまでも忘れられない春の日だった。
どんな決断をしても、後悔の気持ちはおこってこない気がした。
みるみる体の重みが溶けていく。
みるみる色々な感情で充血した体の重みがひいてくる。
ほんとうに暖かくもなく、寒くもなく、
まったくの「ゼロ」の体感だった。
だから新しくスタートを切れると思った。
ここは、いま「プラス」でも「マイナス」でもない「ゼロ」なんだ。
いましかない、ここからもう一度人生を始めよう。
コメントを残す